寒い夏 / 山下達郎 ~ 淋しさは季節を問わないもの
今年の夏も暑かった。
ニュースでは連日、猛暑の話題を報じ続けていたが、これほどまでに暑さが続くと、もう、最高気温が30度台後半だろうと全く驚くにも値しない。
もはや「猛暑」だけではニュースバリューがあるのかどうだかさえ怪しい。
学校ではプールの水温が上がりすぎて、水泳の授業さえできないところもあると聞く。
知り合いの話だと、あまりに暑すぎて海も閑散としているとも聞く。
一日一回は外出して、陽の光を浴びないと治まらない私でさえ、あまりの気温の高さに、一日中家に閉じこもったままの休日を送る羽目に陥ったりもした。
この殺人的な暑さの中、甲子園はいつもの通り高校野球が行われていた。
普段から酷暑の下で練習しているから、彼らは何ともないのか。いや、そうとも思えない。
たぶん、死者か重篤な症状を起こす者かが発生しない限り、この夏の我慢大会は続けられるのであろう。
せめて、大阪ドームで実施することができたら、選手も、観客もかなり負担を少なくできるような気がするのだが。
伝統という名の足かせが、そこに立ちはだかる。
そういえば、来年の夏は東の方で、オールスター世界対抗運動会が行われるんだっけ。
いったい、何の拷問なんだ。
おっさんの世代にとっては、チューブが登場するまでは、山下達郎こそが「夏の音楽」として認知されていた。
「RIDE ON TIME」「LOVELAND ISLAND」「高気圧ガール」のようなヒット曲はもとより、アルバム単位でも「BIG WAVE」のようなまんまサーフィンアルバム(映画のサントラでしたけどね)作ってみたり、歌詞も夏を彷彿させる内容も多かったしで。
潮目が変わってきたのは、アルバムでいうと「POCKET MUSIC」あたりかな。レコーディングにコンピューターを導入し始めたところから、サウンドの質感が若干変わってきたようなところがある。
それとやっぱり「クリスマス・イブ」の存在が大きいだろうな。
もちろんその後も「踊ろよ、フィッシュ」や「さよなら夏の日」みたいな夏ソングはあるのだけれど、今や彼が「夏の代名詞」かと言われると、必ずしもそうではないとは思う。
今回取り上げるこの「寒い夏」。
アルバム「僕の中の少年」の中の、どちらかというと地味な曲だ。
タイトルから何となく想像できる通り、決して明るい歌じゃない。
『何気ない僕の小さなひとこと』から出て行ってしまった恋人。
『とり戻したいものは 若さや時間じゃなくて』君だけなんだというのが、歳を重ねたがゆえに迎えた、側に寄り添ってくれる存在が誰もいない孤独感、淋しさをしみじみと浮かび上がらせる。
もう一つ特筆したいのは、こんなタイトルなのに、歌詞に「夏」を思い起こさせるフレーズがほとんどないことだ。
本来、こうした孤独感、淋しさを表現するには、通常「秋」か「冬」が適役なのだろうけど、それを「寒い夏」としてみたのが、かつて夏の代名詞とまで言われた、彼なりの矜持なのかもしれない、と勝手に思っておくことにする。
噂では、本当は夏が「大嫌い」ならしいですからね。達郎さんって。
それにしても、本当に今年の夏も暑かった。
たまには冷夏も味合わせてくれよ。淋しさとかは抜きでね。
【おまけにもうひとつ~こんなのも歌いたい~】
十字路 / 山下達郎
「POCKET MUSIC」収録の、これまた地味な曲。三連符のリズムに乗りながら『雨の十字路』で『立ち尽くす』ほかないやるせなさが、少ないフレーズの中でうまく表されているところがいい。『君へと・・・』から始まる彼の十八番であるファルセットは、いつ聞いても鳥肌モノ。